「百万人署名運動全国通信」157号(2010年12月号)では、沖縄の米軍基地強化と一体で進められている自衛隊の強化についてとりあげました。琉球新報記者の滝本匠さんへのインタビューをまとめたものです。今回、その掲載記事を紹介します。
 12月3日~10日まで日本各地の基地と周辺の空海域で過去最大規模の日米共同演習が行われ、沖縄本島など南西諸島の太平洋側では、離島への侵攻に対処する島しょ防衛の訓練が実施されました。この演習は、北朝鮮を攻撃する米軍との連動を想定したものですが、「尖閣諸島奪還」という対中国の軍事行動も含まれています。菅政権は、このような大規模「共同演習」という形で、実際に戦争のできる自衛隊にしていくことを進めています。またこれ自身、憲法9条1項で禁じてきた「武力による威嚇」そのものと言えます。こうした中で、自衛隊の「南西諸島」配備が加速されようとしています。
 怒りも新たに、基地と戦争をなくそうと闘う沖縄県民と連帯して、「戦争挑発をやめろ!」「日米合意を撤回しろ!」と抗議の声を強めましょう。

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自衛隊の南西諸島配備と強化される普天間基地
~滝本匠さん(琉球新報・東京報道部記者)にインタビュー

■普天間基地の強化計画
 在沖米軍基地の最近の動向についてですが、韓国哨戒艦沈没事件を契機に大規模な米韓合同軍事演習が繰り返されていて、その中で普天間基地の存続・強化がうかびあがっています。
 米海兵隊が新しく出した2011年度航空整備計画書には普天間基地の「移転頓挫」が想定され、現有施設の改修・補強が盛り込まれています。ご存知のように、新基地には垂直離着陸機オスプレイを2012年に配備するとされていましたが、計画書では普天間基地のCH46Eヘリをオスプレイに順次切り替えていくこと、オスプレイの運用任務は第561中隊と第562中隊が担うと部隊名まで出しています。普天間基地は老朽化した施設で新基地への移転は施設の更新という意味もあったのですが、存続が打ち出されたわけです。
 海兵隊は陸海空の統合部隊ですが、航空部隊はヘリコプターの他に固定翼機KC130空中給油機を持っていますがこれは輸送機でもあります。サマワに自衛隊員を運んだ自衛隊のC130と同機種です。米軍再編の中で、普天間が移設するとき、この空中給油機KC130は岩国に移すということでしたが、これには攻撃機能がないので、空対地ミサイルが装備できる形にする計画が前述の計画書に記載されており、普天間基地でもそういう方向になる可能性もあるわけです。ヘリコプターだけなら、2800mもの長い滑走路はいらないのですが、固定翼機には必要なのです。
 また、最近、嘉手納飛行場の滑走路2本のうち1本が補修工事に入っています。戦闘機の離発着は負荷が大きく、5年に1度の割合で滑走路を補強しなければならない。いま1本しか使えないので、代替地、緊急着陸地が必要ということで近くの普天間基地の滑走路が使われています。政府や米軍は「臨時」という説明ですが、この間の騒音の数字は、過去5年でも最高の騒音発生回数で、嘉手納基地からのF15戦闘機の飛来があったり、岩国にあるFA18という戦闘攻撃機も降りてきている。そして周辺の実弾射爆撃場に普天間から飛び立ったりしています。
■空爆の実弾訓練場・鳥島
 韓国の哨戒艦沈没事件をめぐる米韓の軍事演習でクローズアップされる以前から、鳥島での実弾射爆訓練は激しいです。在韓米軍の実弾射撃場の梅香里が住民の反対運動によって閉鎖されたので、玉突的に沖縄に来て訓練している状況です。鳥島は久米島の北方30㌔にある無人島で、空から地面をめがけた爆撃訓練をするのには標的が見やすく、撃ったあとも命中したかどうか確認しやすく、使い勝手が良いと在韓米軍パイロットが評価してわざわざ韓国から沖縄に来て訓練しています。爆弾は劣化ウラン弾やクラスター爆弾で、いわゆる空爆訓練です。このような空対地の訓練場は青森県三沢市の天ヶ森がありますが、沖縄では沖縄本島を取り囲むように空軍の空域が設定されているので、ドッグファイトと言って戦闘機で追っかけあう訓練も行われています。
 鳥島は小さな島で昔は木々の緑で青々とした島だったそうですが、爆撃訓練で3分の1くらいになり、瓦礫の島になっています。島の周りは好漁場ですが操業できず漁民は返還を要求しています。民主党はそれを逆手にとって、鳥島返還と併せて地元要望のあるホテル・ホテル訓練区域の使用制限の一部解除の交渉を「5・28共同声明」の中にわざわざ入れています。しかし米軍にとっては格好の空爆演習場なので返還はしないと思います。射爆場は鳥島の他にも沖縄に5ケ所あります。
■宮古島に掃海艦が寄港
 先月10月に宮古島の平良港に米・海軍佐世保基地所属の掃海艦ディフェンダーが入りました。2009年4月には石垣港に掃海艦ガーディアンとパトリオットの2隻が入港。2007年6月には与那国島の祖納港に掃海艦ガーディアンとパトリオットの2隻が入港しました。
 沖縄県内の民間港への米艦船の入港は本土復帰以降、与那国に入ったのが最初です。目的は友好親善と言いますが、事前に水深をはかったり、どういう船が入れるのかを調査しました。船は大量物資輸送の基本的手段ですから、事前調査をやりはじめたということは、何らかの展開をする必要性が出たからでしょう。自衛隊の南西重視と無縁ではない。すでに2001~06年頃に米軍ヘリや給油機による宮古・八重山地域の民間空港使用は実績を重ね、ヘリポート場所や燃料調達などのチェックは済ませているようです。今回は沖縄本島以西の民間港湾施設使用のチェックでしょう。これは日米共同の島嶼防衛の一端を担うものであると言えます。
■沖縄の自衛隊
 1972年の本土復帰後、1973年には沖縄に陸上自衛隊「第一混成団」が西部方面隊所属で編成されましたが2010年3月に陸自「第15旅団」に改編され、人員は300人増えて2100人編成です。第15旅団の司令部は那覇空港の隣の那覇駐屯地にあります。そのほかの細かな部隊展開は他の地域にもあります。おおざっぱに言うと、レーダー基地(航空自衛隊)と高射隊で、知念村とか恩納村とかの山の上など旧日本軍が使っていた場所にあります。また、2009年には沖縄市に自衛隊沖縄射爆場をつくりました。
 那覇空港は自衛隊との軍民共用空港で、日本で1、2を争う飛行回数の多い空港です。観光客を誘致するためにはもう1本滑走路がほしいという地元の要求があってそれが進んでいますが、アメリカ側は普天間がなくなったときに替わりに使えるものを確保してくれと言って、那覇空港の増設滑走路使用の約束も普天間移設の条件にしています。
 在沖米軍と自衛隊の「融合」として、日本本土の自衛隊の戦闘機が米軍と一緒に訓練をやったりするために那覇基地に来ています。那覇の自衛隊基地には航空自衛隊のF15もいますけれど、それだけじゃなくて、本土から来て訓練するということです。沖縄の訓練空域は自衛隊も共同使用になっています。
 今年の暮れに「防衛計画の大綱」が出されますが、それと関連して南西諸島方面への自衛隊の部隊配備として与那国島に中隊規模(約200人)の陸自・歩兵の常駐が想定されています。自衛隊の中では2020年までに2万人を配備したいという意見もありますが、とりあえず与那国島に有事の展開に備えた受け皿として置く、それ自身が抑止力になると陸自サイドは主張しています。
 中国が海軍力を強化して太平洋に進出してきていますが、南西諸島方面へのアメリカと日本の動きは朝鮮有事を想定した民間施設使用の調査ということを越えて、中国戦略への対抗という点が強まっていることをしっかり押さえておく必要があります。
 日米間における自衛隊の役割、軍事的協力関係は、「朝鮮有事」では後方支援でしたが、アメリカ自身の国力の減退、財政難を抱え、海兵隊はもういらないといった議論もあって、軍事も聖域ではなくなり、基本的には同盟国に役割を担ってもらって、手を引くところは引いていく方向です。今度の尖閣諸島問題でも、米国の対日防衛義務を定めた「安保条約第5条の適用対象」とクリントン国務長官が言ったと言われていますが、尖閣諸島で米軍が真っ先に来て助けてくれるということにはならない。米軍再編の、2005年の日米合意文書に「日本は島嶼部への侵略に対処」と明確に書いていて、自衛隊はアメリカの事情や中国脅威論に乗っかる形で西方重視を進めていっています。
 辺野古の新基地に、あるいはキャンプ・シュワブに自衛隊を常駐させたいという案は今の段階では北沢防衛大臣が提唱していることですが、具体的な話は全くみえていません。
■共同使用と共同訓練
 共同使用というのは同じ施設を一緒に使うということですが、キャンプ・ハンセンの場合は、海兵隊が使わないときに自衛隊が使わせてもらっていると日本側は説明しています。共同使用は米軍再編の中で決められて、じつは嘉手納もその対象ですが嘉手納はまだ共同使用されていません。嘉手納に自衛隊の飛行機が来たら騒音が大問題になるし、存在そのものが県民の反発をかうからです。日本側は自衛隊にキャンプ・ハンセン、キャンプ・シュワブ、嘉手納を管理させれば、米軍の使いたい放題にさせないで、自衛隊仕様をハンドリングするよ、コントロールできるよ、そうすれば沖縄の負担軽減につながるよと言うのですが、基地の自由使用を譲りたくないアメリカは在日米軍基地を自衛隊管理にはさせないでしょう。
 共同訓練というのは、場所を問わず米軍と一緒になって訓練することです。陸上自衛隊西部方面隊司令部(熊本市)は2000年に佐世保の相浦に九州・沖縄地区の離島・国境の島の有事即応対策のために普通科連隊(660名)を創設しました。その部隊は海兵隊機能をもった部隊で、日本本土の共同訓練だけでなく、カリフォルニアで米海兵隊と一緒になって水陸両用訓練などを続けています。07年から3年間で陸海空合わせて43回1万人超の隊員が米国で訓練したことが国会答弁で明らかになりました。
 「共同訓練の一部」を陸上自衛隊は「研修」と言っています。例えば、キャンプ・ハンセンの、実際の街を模したコンバットタウン・都市型ゲリラ戦の訓練場での路上爆弾、簡易手製爆弾IEDを発見して解体させる実地訓練には沖縄の陸自部隊も参加しています。自衛隊が専守防衛なら、路上爆弾の対処の仕方を訓練する必要もないはずです。その他にも幹部を対象にして、海岸線の上陸訓練をビデオ研修させたりしている。国会答弁によると、07年から3年間で陸自16回(共同使用)2100人、空自2回(共同訓練)200人ということです。米軍のやることを自衛隊もできるようにする「融合・一体化」はまさに自衛隊の強化です。
■日米の島嶼奪回訓練計画
 12月に島嶼奪回の強襲上陸訓練を日米合同実動演習でやる計画です。もともとは09年に立てられた計画ですが、尖閣問題で対中国の緊張の高まりもあってか詳細は明らかにしていません。陸上は大分県の日出生台演習場で、洋上は沖縄本島、南西諸島などで島嶼が武力侵攻された場合の奪回の共同対処訓練を行うというものです。米国側からは第7艦隊の原子力空母ジョージワシントンも参加する予定です。いままでは洋上訓練と言えば、自衛隊は後方支援で、補給だとか、護衛だとかいうレベルでしたが、島嶼奪回という場合、ある島に敵が武力侵攻したのでそれをせん滅し奪回することになり、共同演習の目的がはっきりしているので、戦争作戦としてのエスカレーションを意識した訓練であると言えると思います。前原外務大臣は10月の講演で日米防衛協力の指針(ガイドライン)による日米協力のあり方について「様々なシナリオに基づいた協力関係をより具体的に詰めておく必要がある」と見直しに言及しています。「共同訓練」は数段進みます。
 普天間基地即時返還、辺野古新基地建設反対、沖縄に基地はいらないという運動はこうした情勢下だからこそ、大事な闘いだと思います。(文責:事務局)