◆参院で「大震災と統治機構」をテーマとした憲法審査会開催◆

4月25日(水)、参議院で今国会4回目の憲法審査会が開催され、百万人署名運動では、西川事務局長をはじめ3名で傍聴してきました。
今回は「東日本大震災と憲法」についての審議の2回目で、双葉町長・井戸川 克隆氏、東北大学大学院教授・牧原 出氏、京都大学法科大学院教授・大石 眞氏の3名が参考人として招かれ、各人から意見を聴取したうえで質疑が行われました。この日は国会が田中防衛相、前田国交相の問責決議をめぐって空転していて他に開催された委員会等がなかったためか、あるいは「緊急事態条項」に結びつきそうな「大震災と統治機構」がテーマであったためか欠席者が比較的少なく、委員が私語を交わす場面もそれほど目立ちませんでした。国会審議をボイコットしている自民党は小坂憲次会長を除き全員欠席するのではないかという観測もありましたが、結果的には前回とは打ってかわって多くの委員が出席していました。

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審議の中でひときわ心に残ったのは、地震・津波と原発事故に直撃され、現在も苦闘されている井戸川町長の発言でした。「国は被災者を『支援』すると言うが違和感がある。私たちが求めているのは国が『責任』を果たすことだ」「野田首相に双葉郡民は『国民』ですかとお聞きしたとき彼は大事な『国民』ですとおっしゃったが、私は『棄民』にされたと思っている」「ずっと町民の被曝検査を求めてきたが、いまだに実施されていない」「政府が中立でなく先回りしていて、事故の原因者である東電の顔がどんどん見えなくなってきている」「事故後肝心な情報が得られず町民に不要な被曝を強いてしまったが、現在も国や県より新聞からの情報が先行している状態だ」「双葉町は合併しなくて本当に良かったが、激務のために町職員の半分は病気になっており、退職した職員も多い」「国の役人に20ミリシーベルト/年で本当に大丈夫なのかと聞くと『広島・長崎では発症した事例はありません』と言われたが、原爆による健康被害について当時十分な調査が行われたのか」など、語り口は穏やかでしたが、それだけにかえって言葉の端々に強い怒りが込められていることが感じられました。

また、改憲の必要性をめぐる議論で興味深かったのは、大石教授の意見聴取とそれをめぐる質疑でした。例えば、大石氏の立場は(実際は難解な法律用語を駆使した複雑な議論でしたが、大胆に要約すると)「現行憲法は平常時を前提として組み立てられており緊急時の対応性に不備があるので、一定の統制・監視や事後チェックの仕組みは必要だが、緊急事態を想定した規定があってよい」というものでしたが、福島みずほ氏(社民)が「今回の震災、原発事故で憲法に非常事態がないから生じた問題はひとつもなかった」と指摘すると、「確かに中央政府の機能は存続しており、今回は『国家緊急事態』というような状況ではなかった」と述べていました。
この点については、審査会幹事の魚住裕一郎氏(公明)からも、「今回のような緊急事態への備えは必要だとしても、それは憲法を変えなくてもできるのではないか」という趣旨の発言がありました。このように、東日本大震災と福島第一原発事故を緊急事態条項の必要性の議論に結びつけようとする改憲派の思惑は、今回の審査会の場では不発に終わったように感じましたが、参院では早くも次回の審査会を5月16日に、そのものずばり!の「大震災と国家緊急権」をテーマとして開催することが決定されており、引き続きその動向を厳しく監視していく必要があると思います。(G)