◆衆院憲法審査会で「第1章 天皇」から憲法の各条章に関する議論がスタート◆
5月24日(木)朝9時から衆議院で今国会5回目の憲法審査会が開催され、百万人署名運動では西川事務局長をはじめ6名で傍聴してきました。衆議院では4月5日以来久しぶりの開催となりましたが、今後は「原則毎週開き、全11章と前文について、各党が見解を表明する」。この「作業は公明党が発案し」「共産、社民両党も改正を前提としないことを条件に審議入りに同意した」。大畠章宏会長(民主党)は「審査会終了後、記者団に『改憲する、しないは横に置き検証していく』と説明した」とのことで(「」内は『MSN産経ニュース』より引用)、この日は「第1章 天皇」について議論が交わされました。

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冒頭、衆議院法制局の幹部から憲法調査会での「主な論点」の説明を受けた後、まず、各会派の代表者からの意見表明がありました。その内容を『MSN産経ニュース』から引用しておきます(憲法審査会の動向や自民党改憲案の内容については、改憲推進の立場を明確に打ち出している産経新聞がもっとも詳細な報道を展開しています)。
▲民主党(山花郁夫氏)
党として個別条項について現時点で意見としてまとまったものはない。皇位継承順位を変えるなら、国民統合の象徴と認識できるように国民投票が必要。憲法改正の際は全会派一致で案を出すことが望ましい。各会派が草案などを出せば政争の具となる。
▲自民党(中谷元氏)
天皇は外交関係で日本を代表する面があり、対外的にも「元首」と明記すべきだ。国事行為に関しては「内閣の助言と承認」ではいささか礼を失するため、わが党の草案では「進言」とした。国旗、国歌は国家を象徴するシンボルなので憲法上の規定が必要。
▲公明党(赤松正雄氏)
第1章に改正を必要とする条項はない。天皇は定着している“元首的象徴”という位置づけがふさわしい。「元首」と明記すると意味合いが変化する。女性天皇については皇室典範の改正論議に委ねるが、認める方向性で議論してきた。
▲共産党(笠井亮氏)
1人の個人が世襲で日本国民統合の象徴になるという仕組みが、民主主義、人間の平等の原則にあわない。将来の日本の方向性として民主共和制を目指すべきだ。同時に天皇の制度は憲法上の制度であり、その存廃は将来、国民の総意で解決されるべき問題だ。
▲新党きづな(渡辺浩一郎氏)
天皇が元首ではあるが明記すべきではない。多くの国民は「天皇は元首である」との考えをすでに持っている。天皇は各国の大統領・首相と同等ではなく、その上に位置する象徴ととらえるべきだ。
▲社民党(照屋寛徳氏)
天皇を「元首」と明記するのは憲法の基本理念に反し到底認められない。女性天皇は世論の支持もあり、男女共同参画社会の潮流にもかなう。皇室典範改正によって実現すべきだ。国事行為を増やし公的行為を追加することには反対。
▲みんなの党(柿沢未途氏)
天皇は「元首」であることと国旗、国歌について明記すべきだ。国家元首があいまいであり続けるのは対外的にも問題。国家の基本中の基本について規定がないのが日本国憲法の最大の問題だ。

いかがでしょうか。自民党だけでなく、新党きづな(消費増税、TPP参加などに反対して民主党!を離党した議員たちが立ち上げた政党)もみんなの党も驚くべき認識を明らかにしました。なお、国民新党の委員は欠席したため(分裂騒動の後、参議院の憲法審査会でも欠席が続いています)、意見表明はありませんでした。

続いて自由討議が行われ、「第1章 天皇」に関するものだけでなく、審査会の目的、進め方や96条の発議要件、現在の社会状況と憲法との関係などについても発言がありました。例えば、辻恵氏(民主党)が「審査会では改憲案ではなく憲法をめぐる社会状況について議論すべきである。1章を変える必要なないし憲法全体を見ても今改正を前提に議論しなければならない問題はない」と述べたのに対して、古屋圭司氏(自民党)は、改憲を推進する立場から96条の発議要件の緩和を主張しました。この点について、赤松正雄氏(公明党)が「審査会では今の憲法状況の検証を行うべきである。以前は96条の発議要件を緩和してもよいという立場だったが、小選挙区制の導入後民意が極端な形で反映される選挙結果を見て、今は3分の2が現実的だと考えるようになった」と発言したことは、注目すべきだと思いました。

また、照屋寛徳氏(社民党)は、薩摩藩の侵攻、琉球処分、沖縄戦など沖縄が経験してきた過酷な歴史を述べ、「敗戦後県民は米軍の支配を受け人権のない無憲法下の状況にあったが、復帰40年を迎えた今日もなお憲法の理念・精神は沖縄県民に届いておらず、反憲法的な状況に置かれている」と訴えたのが印象に残りました。

一方、今回もまた思わず絶句してしまうような「トンデモ論」が飛び交いました。例えば、保利耕輔氏(自民党)は、天皇について議論することすら「私たち世代の者にとってはおそれ多い」と述べて、多くの傍聴者を失笑させていました。また、笠井亮氏(共産党)が「国旗・国歌が強制されている現状は立法時に政府・与党が説明していた立法趣旨と異なっており、検証が必要だ」と指摘したのに対して、緒方林太郎氏(民主党)は「国旗・国歌の問題が内心の自由を害するという議論は理解できない。こういう議論があるのは日本人として残念だ」と発言しました。私は基本的人権の何たるかを全く理解していない「こんな議員がいるのは日本人として残念だ」と思いました。

今回は、開会後間もない時間には40人以上が出席していましたが、しばらくすると出席者は30~35人くらいに減少し、いつもと同じく自民党の欠席者が目立ちました(13人中3人しかい在席していないこともありました)。審議時間は3時間程度と予定されていましたが、実際には2時間も経たないうちに発言希望者がなくなり10時50分頃終了しました。傍聴者の多くは9時の開会に間に合うよう満員電車で駆けつけており、こんなことなら10時開会にしてほしかったという声が聞かれました。(G)


次回の憲法審査会は、

●参議院が、5月30日(水)午後1時から、「東日本大震災と憲法」(参考人質疑の概要報告及び討議)をテーマとして、
●衆議院が、5月31日(木)午前9時から、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件」(日本国憲法の各条章のうち、第二章の論点)をテーマとして開催される予定です。

*傍聴を希望される方は、前日の午後2時までに百万人署名運動事務所までご連絡ください。
電話/ファックス 03-5211-5415
メール  million@mqc.biglobe.ne.jp