◆参院憲法審査会で「東日本大震災と憲法」について自由討議◆
5月30日(水)午後1時から参議院で今国会6回目の憲法審査会が開催され、百万人署名運動では西川事務局長をはじめ6名で傍聴してきました。
今回は「東日本大震災と憲法」についての審議の4回目で、冒頭、参議院事務局から過去3回にわたり大震災と人権保障、統治機構、国家緊急権をテーマとして行われた参考人質疑の概要について説明がありました。

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しかし、傍聴者の入場手続きが遅れ委員会室に入れたのが開会の数分後となったため、私たちが聴けたのは説明の最後の部分だけでした。また、この日は傍聴者に資料が配布されなかったので、結局、私たちは事務局による説明の内容を把握することができませんでした。これまでの傍聴記でも触れましたが、参議院の傍聴者への対応は、こちらもけっして十分とは言えない衆議院と比較してもあまりにもお粗末で、主権者国民に会議を公開するという憲法57条の規定を軽視していると言わざるを得ません。

審査会開始時刻だというのに1Fのテレビとにらめっこです。
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続いて各会派の代表者が1人ずつ発言しましたが、大震災と原発事故によって生じた事態は憲法の不備によるものではないという点で、民主党(江田五月氏)、公明党(白浜一良氏)、共産党(井上哲士氏)、社民党(福島みずほ氏)の見解は一致していました。

これに対して、自民党の磯崎陽輔氏は「東日本大震災と憲法」というテーマを無視して4月27日に発表した自党の改憲草案について説明し、「これを審査会の議論のベースにし」、改憲案の発議の要件である「3分の2の合意を得られる共通点を見出したい」と述べていました。

その後、自由討議に入りました。上記の民主、公明、共産、社民各党の意見に示されたように、過去3回の参考人質疑を踏まえれば、今回の震災、原発事故で政府の対応が不十分だったのは憲法に緊急事態の規定がなかったからではなく、現行の法制度を十分に生かすことができなかったため、あるいは現行の法制度に不備があったためであり、「東日本大震災と憲法」という観点からみて重要なのは基本的人権の問題、つまり13条の幸福追求権や25条の生存権などが今日もなおないがしろにされていることであることは明らかであり、共産党や社民党、そして民主党の一部の委員はそうした立場からの意見を表明しました。

一方、自民党の委員たちはこれまでの質疑の内容を無視して、がれき処理の遅れなどを理由に、あるいは内乱、テロ、戦争など大震災とは無関係の論点を持ち出して、憲法に「国家緊急権」の規定が必要だと言いつのり、例えば幹事の川口順子氏は、今回の原発事故ではまかり間違えば首都圏3000万人の避難が必要になる事態もあり得たことを根拠として、「われわれは最悪の事態を想定しなければならない。だから国家緊急権の規定が必要だ」と主張しました。

これに対しては井上哲士氏(共産党)が、「国家緊急権の規定があったとしても3000万人を安全・円滑に避難させることはできなかった」と至極もっともな反論を述べましたが、私は、そもそも自然災害を契機として千万人単位の被害が生じたり避難が必要となったりするとすれば原発の事故以外にはありえないのだから、原発の存続を前提として絶対に対処できないような最悪の事態を想定しなければならないというのは倒錯した議論であり、全ての原発を今すぐ廃炉にした上で放射性廃棄物の適切な管理・処分に全精力を傾けていくというのが私たちの選択すべき真っ当な方向ではないかと思いました。

こうした議論の経過の中で、終盤になって前川清成氏(民主党)が、「先生方の議論を聞いていると、言葉は悪いが東日本大震災に無理やりこじつけて『火事場泥棒』的に憲法改正をもくろんでいるようだ」と述べ、自民党の委員などが「火事場泥棒」という言葉に強く反発するという一幕がありました。
適切な表現であったかどうかは別にして(一緒に傍聴した仲間は「渡りに船として」と言えば問題はなかったのにと言っていました)、大いに共感できる発言でしたが、これに対して小坂憲次会長(自民党)は「幹事間で対応を協議する」と述べていましたので、公式の議事録ではこの言葉は削除されるかもしれません。
なお、前川氏はこの問題発言の後に、憲法29条では第2項で「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」、第3項で「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と規定されていることを紹介したうえで、大規模災害時などの緊急時に財産権を制約することが仮に必要だとしても、それは現行憲法に基づいて行うことが可能であり、国家緊急権の規定を置く必要がないことを指摘しました。

ところで、最初の各会派の代表者の発言の中で、井上哲士氏(共産党)と福島みずほ氏(社民党)がそろって「小委員会には反対だ」と表明していました。『MSN産経ニュース』によれば、「参院憲法審査会(小坂憲次会長)は29日、幹事懇談会を開き、今後の進め方について協議した。自民党の川口順子氏は憲法議論の深化を図るため民主、自民両党が合意した3小委員会設置を提案したが、共産、社民両党が『少数会派は3つも掛け持ちできない』と反発し、結論は出なかった」とのことで、今後審査会がどのように運営されていくのか、注視していきたいと思います。(G)