6月6日(木)、今国会10回目の衆議院憲法審査会が開催されました。
今回のテーマは「日本国憲法の改正手続に関する法律における『3つの宿題』」でしたが、この問題は昨年も衆参両院の憲法審査会で議論されており、とくに衆院では2月23日、3月15日、22日、4月8日の4回にわたってとりあげられていました(興味のある方は、当ブログの過去記事をお読みください)。
それを今回は1回で済ませてしまおうとしたわけですが、案の定途中で時間切れとなり、3つ目の宿題(国民投票の対象拡大)は次回に積み残されることになりました。

保利会長の「命令」で出席した自民党の委員たち

今回、私はいつにも増して自民党の委員の出席状況に注目していました。と言うのも、前日の5日に、『msn産経ニュース』で「『やる気あるのか』 憲法審査会会長、欠席目立つ自民に出席命令」と題した次のような記事が配信されていたからです。
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衆院憲法審査会の保利耕輔会長(自民党憲法改正推進本部長)が同党筆頭幹事の船田元氏に、審査会への自民党委員の出席を命じていたことが分かった。定数50の同審査会で、自民党は会長、幹事以下31人を占めるが、委員の欠席が目立ち、憲法改正への「本気度」を問われかねない事態に陥っていた。

問題が表面化したのは、「緊急事態」条項が議題となった5月23日の審査会で、自民党委員が頻繁に入退室し、平均出席率は5割前後。これに対し、野党はほぼ全員が出席していた。自民党委員の欠席で「委員の半数以上」の定足数を割る可能性があり、共産党は審査の中止を要求した。

以前の審査会でも自民党委員の出席率が低かったため、保利氏は同日の審査会後、船田氏に「代理を出席させるように」と改善を要求。これを受け、船田氏は自民党の全委員に出席を求める文書を送付した。
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結果はどうだったかと言うと、保利会長の「出席命令」が効いたようで、この日、自民党の委員はだいたい20~25人前後が出席していました。そのため、出席委員数は他会派を含む全体では35人以上となり、ときには40人を超えていました。とは言え、居眠りしたり長時間スマートホンをいじっている委員もいて(後者は松下政経塾出身の自民党の委員で、傍聴席からスマホが丸見えでしたが、それを気にしている素振りはありませんでした)、興味を持てない講義であっても単位を落とさないためにしぶしぶ出席している学生のようだなと感じました。

傍聴者は30~35人程度(百万人署名運動は3人)で、記者は10人前後が席に着いていました。

選挙権年齢・成人年齢の18歳への引下げについて

さて、3つの宿題のうち最初に検討されたのは、「選挙権年齢・成人年齢の18歳への引下げ」でした。
この問題については、『朝日新聞DIGITAL』所載の記事に議論の内容が要領よくまとめられていましたので、以下、それを引用しておきます。記事の見出しは、「自・民・維は『先行』主張 衆院憲法審が『18歳から国民投票』議論」でした。
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衆院憲法審査会は6日、憲法改正の国民投票について議論した。自民、民主、日本維新の会の3党は、一般選挙の投票年齢の引き下げを待たずに、「18歳以上」が国民投票できるようにすべきだと主張。これに対し、改憲に反対する政党は、国民投票のみ先行すべきではないと訴えた。

2010年に施行された国民投票法では、(1)国民投票に合わせ一般選挙の投票年齢や成人年齢を20歳から18歳に下げる(2)公務員の運動制限の取り扱い(3)憲法改正以外の国政の重要なテーマでも国民投票をできるようにするか、について結論を出すと付則で定め、国民投票に踏み切る上で「3つの宿題」とされてきた。

この日の審査会では、特に国民投票法と他の法律で定める年齢の整合性が焦点となり、改憲の環境整備を急ぐ自民党の船田元氏は「国民投票制度とその他法令を切り離し、『18歳以上』で動かすことも視野に入れるべきだ」と主張。
すでに付則を見直す改正案を提出している維新の坂本祐之輔氏は「憲法論議を前進させていくための喫緊の課題だ」と同調した。
民主党の武正公一氏も、法改正について「18歳が世界標準。一つの選択肢だ」と前向きな姿勢を示した。

これに対し、改憲に反対する共産党の笠井亮氏は「他の年齢引き下げを棚上げして、国民投票だけ先行させる法改正は断じて許されない」と述べた。

この日の審査会では、政府側が一般選挙での投票や成年の年齢を18歳に引き下げるための取り組み状況を説明。関係省庁からは「民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが適当だが、現時点では様々な問題が生じる」(法務省)などの慎重論が相次ぎ、審査会の保利耕輔会長は「検討条項が非常に多い。政府はしっかりやってもらいたい」と苦言を呈した。
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保利会長が自らの意見をたびたび表明

この日は、これまでほとんど私見を述べることなく議事の進行役に専念してきた保利会長が、しばしば自らの見解を披歴していました。

たとえば、上記の記事の最後に紹介されている「苦言」に続いて、保利会長は次のように言っています。
「とくに総まとめをしている内閣府は、『環境整備に努める』と言っているが、それをどういう方向でどうやるのかについて、十分にわれわれに教えておいていただきたい」、
「学校現場で、高校3年生は18歳になった者とまだなっていない者に分かれる。高校3年は大学受験を控えてひじょうに忙しい年代でもある。そういう者を対象に高校3年生をどうリードしていくのか、中央教育審議会でどういう議論をされているのか、あるいは全然していないのかが気になる」。

また、別の場面では「高等学校は義務教育ではない。15歳で実社会に入る方もいるので、高校でこう教えているから憲法について全国民がわかるのだというのは論理的におかしなところがある。その辺は十分考えておいてほしい」とも発言しました。

審査会の会長がこんなに長く私見を述べるのは、異例のことだったと思います。私は、「3つの宿題」をさっさと片づけて、改憲案を発議し国民投票にかける条件をできるだけ速やかに整えてしまいたいという願望、あるいは焦燥感のようなものが、彼をしてそうさせているのかもしれないと感じました(うがちすぎた見方かもしれませんが)。

驚くべき「指導要領」の内容

これも『朝日』の記事で触れられている政府側の取り組み状況の説明の中で、文部科学省の初等中等教育局長が「小学校から高等学校までの教育課程における憲法教育等について」報告しました。

その参考資料として、小中高それぞれの「学習指導要領」の抜粋が配布されましたが、たとえば小学6年生が憲法について学ぶべき内容は、「日本国憲法は、国家の理想、天皇の地位、国民としての権利及び義務など国家や国民生活の基本を定めていること」とされ、そのうえで「『天皇の地位』については、日本国憲法に定める天皇の国事に関する行為など児童に理解しやすい具体的な事項を取り上げ、歴史に関する学習との関連も図りながら、天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること」、
「『国民としての権利及び義務』については、参政権、納税の義務などをとりあげること」とされているのです。つまり、小学校段階の憲法教育では、天皇への「理解と敬愛の念を深める」ことが第一とされ、国民の権利としては参政権をとりあげれば足りることとされているのです。これは驚くべきことではないでしょうか。

さすがに中高の指導要領では、基本的人権の保障、国民主権、平和主義についての内容が前面に出てきますが、それでも憲法は国家権力を縛るものだという「立憲主義」の考え方は「学習指導要領」にはまったく記載されていません。

昨年、自民党改憲草案の起草委員会事務局長を務めた磯崎陽輔参議院議員が、東大法学部出身でありながら、ツイッターで「時々、憲法改正草案に対して、『立憲主義』を理解していないという意味不明の批判を頂きます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか」とつぶやいて話題になりましたが、東大法学部の憲法講義の内容がどうだったかはともかく、少なくとも高校時代まで「聴いたことがない」というのは無理からぬ話だということになります。

公務員の政治的行為の制限と国民投票運動をめぐる問題について

3つの宿題の2つ目は、「公務員の政治的行為の制限と国民投票運動をめぐる問題」でしたが、この日の審査会について報じた記事の中で、この問題について触れたものはあまりありませんでした。

そんな中、『毎日jp』では「公務員の政治的活動の制限緩和を巡っては、教員に適用した場合の学校への影響などを理由に慎重論が大勢。民主党の大島敦氏だけが『おおらかでよい』と容認論を唱えた」とされていましたが、この記事の後半は明らかな誤報です。

その点を『しんぶん赤旗』の記事で見ると、以下のとおりです(記事には発言者の「姓」しか記載されていなかったので、私が「名」を補いました)。
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憲法改定の国民投票での公務員の政治活動制限の検討については自民・船田元氏が「意見表明や勧誘運動までは制限しない趣旨だった」としつつ、制限を正当化。
維新・坂本祐之輔氏も「いたずらに緩和すべきでない」と政治活動を不当に規制する国家公務員法を引き合いに制限を求めました。

日本共産党の笠井亮氏は、国民投票運動と政治活動の切り分けは困難だとの意見が与党からも出たと指摘。
「政治活動の制限を残せば、国民投票運動を取り締まる側が拡大解釈しかねず、公務員は自由に運動に取り組めなくなる」と強調し、「国民投票運動全体への萎縮効果は非常に大きくなり結局、国民の運動を抑え込むことになっていく」と批判しました。
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なお、『msn産経ニュース』では、「審査会では国民投票での『公務員の政治的行為の制限緩和』についても議論。
みんなの党が『政治的行為は幅広く認められるべきだが、違法行為は厳しく処罰すべきだ』と主張した」と、畠中光成氏の発言だけを取り上げていました。

      ずっしりと大きくなった国会前のイチョウ並木
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「公務員の政治的行為」に警戒感むき出しの改憲勢力

この問題について驚かされたのは、自民党、維新の会など改憲勢力の委員たちが、「公務員の政治的行為」について穏当に表現すれば警戒感、より率直に言えば嫌悪感、あるいは敵意を抱いているとしか思えない発言を連発したことです。

たとえば、西川京子氏(自民)は、国民投票法附則第11条の規定自体について、「そもそも私はこれが疑問だ」と述べ、「憲法改正に関して投票を勧誘するということは、改正そのものがすべて反対という政党もあるわけだから、自分の意見、さらに勧誘をすること自体がひじょうに問題だと思う」と主張しました。

平沢勝栄氏(自民、審査会の幹事でもあります)も、「憲法改正については、それぞれの政党が改正についてAとかBとかCということを明らかにする。その中で、公務員が自分はAという立場、Bという立場、Cという立場ということをみんなの前で明らかにすれば、必然的に特定の政党の考え方や活動に対する応援になる」と発言しました。

そして、『毎日』の記事にあるように、とくに教員が憲法改正に関して意思を表明することを、それは即地位利用につながるとして問題視する意見が目立ちました。

保利耕輔氏(自民)はこの問題についても会長の職責を超えて私見を表明し、「教職公務員の問題はひじょうにセンシティブだ。たとえ話で言えば、生徒が先生に『今度憲法改正(の国民投票)があるそうですね。私には投票権があるけれど、先生はどう思いますか』と言ったときに先生はどう答えるのか、その答えが問題になるのかならないのか。
その生徒がうちへ帰って、『先生は反対だと言っていた』とお父さんに言った。お父さんは賛成派だった。そうすると、それが具体的な問題として浮かび上がってくる可能性がある」と述べていました。

また、公明党の斉藤鉄夫氏が「私立学校の先生は公務員ではないが、私立学校でも同様の問題がある」と発言したことも紹介しておきたいと思います。

私はほんとうにバカバカしいやりとりだと思いました。教員がその地位を利用して生徒に賛成、あるいは反対に投票せよと言うのは確かに行き過ぎで許されないでしょうが、賛成、反対の意思をその理由とともに表明することは何ら問題ないと思います。

保利氏のたとえ話で言えば、その生徒は先生の反対意見と父親の賛成意見だけでなくさまざまな意見や資料を見比べたうえで、自分の頭で考えて賛否いずれかに投票すればいいというだけの話ではないでしょうか(どちらかに決めきれなければ、棄権したり白票を投じてもいいでしょう)。

これらに対して、笠井亮氏(共産)は、上記の『赤旗』で報じられている発言の前にも「公務員の政治的行為を制限した国公法等の規定そのものが憲法違反だ」と指摘していましたが、残念ながら「多勢に無勢」という言葉はこういう状況を言うのだなと痛感せざるを得ないような議場全体の雰囲気でした。(G)

     
3つの宿題のうち、選挙権年齢・成人年齢の18歳への引下げ、公務員の政治的行為の制限と国民投票運動をめぐる問題に関する規定(『日本国憲法の改正手続に関する法律』)

第3条 日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する。

附則第3条 国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。
2 前項の法制上の措置が講ぜられ、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加すること等ができるまでの間、国民投票の投票権を有する者は、年齢満20年以上の者とする。

附則第11条 国は、この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。

次回の衆院・憲法審査会の予定

【日時】6月13日(木)9時00分~(所要3時間くらい)
【議題】①「3つの宿題」について説明聴取及び自由討議
       ・国民投票の対象拡大(衆法制局)
    ②自由討議(各派意見表明、自由発言)

▲傍聴希望者は各審査会の前日昼までに百万人署名運動事務局までお申し込みください。
  T/F 03-5211-5415