2月26日(水)10時から、参議院で今国会初めての憲法審査会が開催されました。審議時間は1時間50分ほど、百万人署名運動では西川事務局長を含めて3名で傍聴してきました。

参院の審査会で実質的な審議が行われたのは昨年の6月12日以来で、昨年7月には参議院選挙がありましたので、多くの委員が入れ替わっていました。会派別の構成も変化し、定員45人中自民21(うち会長1、幹事5)、民主11(幹事2)、公明4(幹事1)、みんな2(幹事1)、共産2(幹事1)、維新2、結い1、社民1、改革1となりました。自民が半数近くを占め、公明を加えた与党というくくり方でも、みんな、維新を含む改憲勢力というくくり方でも、優に過半数になっているということです。

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新たな体制での第1回目だったからでしょうか、この日のテーマは『憲法の役割、在り方等について』という総論的なもので、最初に各会派の代表者が1人5分ずつ発言し、その後希望者が1人3分以内で意見を表明するという形で、議事が進められました。

この日は、常に40人以上の委員が着席し、議場を出入りする者もほとんどいませんでした。肝心なのは審議の内容で出席率ではありませんが、少なくとも外形的にはこれまでにない真面目な審議風景を見ることができました。自民党の委員が指名されたときと発言を終えたとき、そのたびに同僚の委員とみんなの党の和田正宗氏が拍手するという、(私の個人的な感想ですが)異様な光景もありました。傍聴者は25人ほど、記者・カメラマンは10人ほどで、テレビカメラは入っていませんでした。

驚くべき自民党「会派代表」の発言

この日は、傍聴券の手配が遅れたため、私たちが議場に入ったときにはすでに審議が始まっていて、最初に発言した赤池政章氏(自民、幹事)の意見を聞き逃してしまいました。そこで、『参議院インターネット審議中継』のアーカイブから該当部分を検索し、書き起こしてみました。かなり長くなりますが、現在の安倍政権の憲法観を端的に示すテキストとなっていると思いますので、全文を掲載します。

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自民党は昭和30年、1955年、立党以来、自主憲法制定が党是であります。当時の立党文書のひとつである「党の使命」には、次のように書かれております。
「国内の現状を見るに、祖国愛と自主独立の精神は失われ、・・独立体制は未だ十分整わず、・・ここに至った一半の原因は、敗戦の初期の占領政策の過誤にある。・・初期の占領政策の方向が、主としてわが国の弱体化に置かれていたため、・・現行憲法の自主的改正を始めとする独立体制の整備を強力に実行し、もって、国民の負託に応えんとするものである。」

自民党が立党して今年で59年となります。来年は戦後70年、自民党立党60年を迎えるわけであります。あらためて自主憲法制定実現に向けて、私はその意義、理由を、以下3点あると考えております。

第一は、現行憲法には制定過程に問題があり、法律としての大前提である正当性がないと感じております。ご承知のとおり、マッカーサーが率いる占領軍、GHQから占領中に言論統制された中で押し付けられたものです。現行憲法は日本国民の自由意思で、公正で民主的な手続きで起草されたものではありません。これは、占領軍が占領地の法律を尊重しなければいけない国際法の違反ともあり、何よりも現行憲法が自らの前文にある「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、・・ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」に反しています。
憲法自体が憲法違反の存在というものであります。正当に選挙もされない占領軍の最高司令官マッカーサーの指示によって、短期間で英語で草案が作られ、日本国民に知らされないまま日本国政府に渡され、政府はそれを翻訳して憲法草案が作られ、衆議院、貴族院と議論されて、成立したものであります。その制定過程を知る以上、国民代表である私たち国会議員がそれを是とすることはありえないと私は考えております。これを現行のまま放置することは恥であり、後世から叱責を受けかねないと感じております。

第二は、制定過程、その後主権が回復して、国民が十分承認をされているという反論のある中で、私は憲法の内容自体にも問題があると感じております。現行憲法の基礎となっておりますのは、考え方は3つあると言われております。
第一は、制定過程でわかるように、日本人には自分の国を守る力を持たさず、二度と立ち上がらせないようにするという弱体化という占領政策、米国の属国化、保護国化という考え方があります。それが戦争放棄の憲法9条となっております。その条項が激動する国際情勢の現在、国家安全保障の足かせとなっております。
第二は、人工国家、米国流の社会契約説であります。敗戦後の日本国民が契約によって新しい国家を作ったフィクションに基づいています。だから日本の歴史や伝統・文化は全く反映されておりません。
第三は、旧ソ連の1936年スターリン憲法に影響されており、共産主義が紛れ込んでおります。第24条の家族生活における個人の尊重と両性の平等、27条の勤労の権利及び義務などは、その条項に当たると言われております。社会主義者や共産主義者が護憲になる理由がここにあるわけであります。

第三の自主憲法制定理由は、国民の意識、民意であります。自民党は一昨年第二次憲法草案全文を発表して12月に総選挙を闘い、勝利して政権を奪還しました。さらに昨年夏の参議院通常選挙において第一党となりました。自主憲法制定は国民の民意となりつつあります。これは国内外の激動する情勢が国民意識を変化させてきたからだと思っております。
国際社会における米国の相対的地位の低下、北朝鮮の日本人拉致事件、チャイナの尖閣諸島への侵略行為、ロシアの北方領土や韓国の竹島への不法占拠の強化、国内においては東日本大震災もありました。日本国民は現行憲法では自分自身や自分の家族、地域や国家を守ることができないのではないかと気づいています。

以上、現行憲法の正当性のない制定過程、日本の歴史から断絶した憲法内容、民意の3点から、自主憲法制定は今まさに国政の重要課題となっております。今後は、憲法改正国民投票法のいわゆる18歳投票年齢などの3つの宿題を解決させ、全国各地で国民の声を聴く国民運動を展開しつつ、立憲主義に基づき、改正原案をさらに詰め、来るべき国政選挙において3分の2以上の国会議員を結集させるべく、私自身もその一助になればと考えております。
世界有数の歴史と伝統を誇るわが国を守り、発展させ、子孫につないでいくために、立憲主義に基づいた自主憲法制定決意の表明とさせていただきました。

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いかがでしょうか。憲法制定過程についての牽強付会ぶりをはじめ、24条や27条をスターリン憲法の影響によって紛れ込んだ条項だと言ったり、中国をことさらに「チャイナ」(石原慎太郎氏が連発する「シナ」が想起されます)と呼んだり、何よりも憲法を現行のままにすることを「恥」だと述べたり、これが自民党会派を代表しての発言なのですから、本当に驚かされます。
なお、審議の終盤になって、白眞勲氏(民主、幹事)がこの発言の中の「憲法自体が憲法違反」だというくだりについて、どういう意味か説明してほしいと質しましたが、赤池氏はだんまりを決め込んで何も答えませんでした。

集団的自衛権の解釈見直しをめぐる論争

次に、各会派の委員が表明した主な意見を、『NHK NEWS WEB』の記事(タイトルは「集団的自衛権 憲法解釈見直し巡り意見」)を引用する形で紹介しておきます。

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参議院の憲法審査会は、26日、今の国会では初めて審査会を開き、安倍総理大臣が意欲を示している集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直しを巡って意見が交わされました。

このうち、自民党の丸川珠代氏は、「日本の独立を守り、国際的な協力の下で平和を維持するために抑制的に実力を行使することは憲法の基本的な原理をないがしろにするものではない。集団的自衛権の行使は、憲法解釈の変更で可能になりうる」と述べました。

民主党の小西洋之氏は、「『憲法9条を変える以外に集団的自衛権の行使は可能にできない』というのが確立した憲法解釈だ。合理的な理由なく、ある日突然、内閣が『できる』と言ってしまうことは、憲法規範そのものの存立に関わる」と述べました。

公明党の西田実仁氏は、「今の憲法は優れた憲法であり、平和、人権、民主の3原則を堅持しつつ、環境権など、新たな理念を加えて補強する『加憲』が最も現実的で妥当だと考えている」と述べ、集団的自衛権については言及しませんでした。

みんなの党の松田公太氏は、「『集団的自衛権は、国家の固有の権利なのに行使が認められないのはおかしい。国民的な議論を踏まえつつ、政治が責任ある解釈を行ってしかるべきだ」と述べました。

共産党の仁比聡平氏は、「憲法9条の下で集団的自衛権の行使が認められるはずがない。安倍総理大臣の答弁は、歴代の政府見解を根底から覆すもので、憲法破壊にほかならない」と述べました。

日本維新の会の清水貴之氏は、「集団的自衛権の行使を認めない現状は日本への信頼を大きく損ねている。法律で集団的自衛権の行使の要件を明確にし、国民の納得と国際社会の理解を得るべきだ」と述べました。

結いの党の川田龍平氏は、「時の為政者が、憲法を拡大解釈して憲法の本来の方向性をゆがめるような行為は、憲法99条の憲法尊重擁護義務に違反する」と述べました。

社民党の福島みずほ氏は、「今の憲法の下で集団的自衛権の行使を認める解釈は取りえない。従来の憲法解釈を否定する動きは立憲主義の否定であり、憲法を空洞化しようとするものだ」と述べました。

新党改革・無所属の会の浜田和幸氏は、「憲法を前文から検討し直す時期にきている。集団的自衛権について意見交換し、新しい日本にふさわしい憲法にしていくべきだ」と述べました。

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さて、またしても赤池誠章氏(自民、幹事)の登場ですが、審査会後半の自由意見の交換の中で、彼が小西洋之氏(民主、幹事)の発言に言いがかりを付け、審議が紛糾する一幕がありました。『msn産経ニュース』の記事によってそのやりとりを紹介すると、

小西氏は26日に開かれた審査会で「憲法9条をどう頑張ってみても解釈変更の余地すらない。(解釈変更は)憲法規範の存立に関わる問題だ。ワイマール憲法があっても世界史に例のない人権弾圧、蹂躙を繰り広げたナチスの手口そのものだ」と批判した。
これに対し自民党の赤池誠章氏は「ヒトラーと結びつけて首相を批判することは取り消していただきたい」と反発したが、小西氏は「首相とヒトラーを同一視する趣旨の発言は一切していない」と発言撤回を拒否。

というものでした。記事にあるように小西氏は「ヒトラー」の名前など出しておらず、このやりとりの後には福島みずほ氏(社民)が小西氏を援護する発言を行いました。そして最後には、身内であるはずの自民党改憲派の重鎮の一人、小坂憲次氏(自民、会長)にたしなめられたあげく、この騒動は赤池氏のお粗末な独り相撲に終わったのです。

最後に、この日の審査会で(いい意味で)印象に残った発言を一つ挙げておきます。
それは、吉良よし子氏(共産)が、意見表明の冒頭で、「私は、この場で発言する機会を与えてくださった有権者の皆様に心から感謝します。それは、憲法が掲げている理想に日本の現実を一歩でも二歩でも近づけていくことこそが政治の果たすべき役割であり、その仕事をしたいと訴えて議員になったからです。」と述べたことです(『参議院インターネット審議中継』から書き起こしました)。
会長に対して「発言の機会を与えていただきありがとうございます」と言う委員は、野党も含めて大勢見てきましたが、こんな発言は初めてでとても清新な感じがしました。 (G)